郷土料理ものがたり紀行 香川編
香川で郷土料理を提供する店といえば、必ず名前が挙がる名店が「まいまい亭」です。当地にアトリエを持っていた故イサムノグチもこの店のファンで、松の木のカウンターやモダンな石の炉は、イサムノグチが指示して作らせたものです。店主の松岡柳士さんは、料理の腕もさることながら、郷土料理の研究にも熱心で、すでに失われていた地元の料理をいくつも復活させています。
今回、松岡さんに6品の郷土料理を作ってもらいました。1皿目が「つくね芋」。山里で昔から食べられていた料理で、いわゆる自然薯をすり下ろしたものです。2皿目は「鯛ゆり根」。鯛は瀬戸内ではおなじみの魚で、今も昔もめでたい席になくてはならない食材です。3皿目は「鬼どうふ」。本にがりを使った昔作りの豆腐を甘辛く煮て、その上に唐辛子の粉末とネギをのせています。香川県の三豊市はかつて唐辛子の一大産地でした。その当時、風邪予防の料理として食べられていた一品です。4皿目は「アマゴのひらら煮」。松岡さんが何年もかけて復活させた郷土料理のひとつで、川魚のアマゴを醤油ベースの薄味で煮付けています。煮込んでは冷まし、煮込んでは冷ましをくり返し、3日間かけて、煮崩れさせずに箸で骨まで切れるほどの柔らかさに仕上げます。松岡さんは「私が知る限り、アマゴを一番おいしく食べる方法」と、太鼓判を押します。5皿目は「あん餅雑煮」。香川の正月といえば、この雑煮です。白味噌に餡餅の取り合わせは甘そうに感じますが、ダシをしっかりとった汁はキリッとした淡麗な味付けです。具材は大根と人参の薄切りのみで、青さノリが香りを加えます。そこにカリッと焼き上がった香ばしい餅が入り、正月らしい華やかな味になります。6皿目は、そら豆をほうろくで炒り、醤油でひと煮立ちさせてから味をなじませた「しょうゆ豆」。昔から変わらずに食べ続けられている数少ない郷土料理で、香川県人の大好物です。「そら豆は醤油の原料に使われることもあるほどで、この2つは非常に相性がいい」そうで、シンプルながら飽きの来ない味です。
松岡さんによると、香川は食材が豊富な土地だそうです。「私が調べたところ、海や川に196種、山と里に622種の食材がある」。この豊富な食材のうち四季に応じた旬のもの、中でもその日一番のものを使えば、おのずとおいしい料理ができるというのが松岡さんの持論です。ただし、食材の数はどんどん減っているそうです。「水揚げされる魚を見ていても、年々種類が少なくなっている。自然破壊や捕りすぎ、原因はすべて人間にある。このままでは、郷土料理もますます失われることになる」と警鐘を鳴らします。
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