郷土料理ものがたり紀行    宮崎編

南国ならではの温暖な気候が育んだ自然食材の宝庫

  • text : 田中理恵
  • photo : 本井信哉
  • edit : nano.associates 竹内せいじ

chapter 3「限られた食材を上手に活かしてきた、山の惣菜」

延岡市から国道388号線、327号線を経て約2時間。ところどころ対向車とすれ違うにも狭い椎葉の幹線道路は国道ならぬ「酷道」とも称されるらしく、それだけに外部からの影響を受けにくかったのか、独特の山村文化が今もなお残されている民俗学の聖地です。平家の落人が逃れたという険しい山々の谷間には、学校や病院などの施設が整ってはいますが、それでも中心部から片道1時間前後の山間部で、自然とともに生きる人々が多いこの地域では、どのような食が育まれているのでしょうか。この地の名物でもある「菜豆腐(などうふ)」について椎葉村物産センター「平家本陣」を訪ね、店長の山中宏昭さんに説明していただきました。

 

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軟水と硬水が湧くという国内でも珍しい水源の地でもある椎葉村

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椎葉村の郷土料理や「菜豆腐」について語る、椎葉村物産センター「平家本陣」の店長 山中宏昭さん

 

「菜豆腐」は、大豆でつくられた豆腐の中に季節ごとのさまざまな食材が入った色鮮やかな豆腐で、椎葉村では昔から冠婚葬祭や祭事などで必ず出されていたものでしたが、現在では日常的に食されている惣菜だそうです。「発祥の時期についてはハッキリしていませんが、40年くらい前までは「ひきわれ豆腐」という名前で、その後、この地で採れる平家かぶ菜という野菜の葉を入れた「平家菜豆腐」というものから「菜豆腐」と呼ばれるようになりました。また野菜はアクが強いので豆腐が固まるのを助ける意味でも使っていたのではという説もあります」と山中さん。大豆が貴重だった時代にかさ増しのために野菜を入れたという所以が主だそうですが、現在では特に具材に決まりがあるわけではなく、村内に4つある豆腐店の中には、春には菜の花、初夏には藤の花、秋には椎茸、冬は柚子皮などを入れる店もあり、まるで季節ごとの山の風景を豆腐という白いキャンバスに映したような見た目になっています。また、この菜豆腐のように山で暮らす人々の智恵や工夫が詰まったもう一つの椎葉の郷土料理が、蕎麦粉を使った「わくどう汁」。現在、日本で唯一、焼畑農法で蕎麦を作り続けている不土野地区の椎葉クニ子さんを訪ねてみました。

 

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山間で採れる季節の食材がそのまま具材に活かされている「菜豆腐」

 

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