郷土料理ものがたり紀行    福井編

住みやすさ日本一が誇る伝統食文化

  • text : 宮田耕輔
  • photo : 西村幸起
  • edit : nano.associates 竹内省二

chapter 5
「鯖文化が生んだ、新・伝統料理」

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左)小浜市内にある「いづみ町商店街」は鯖街道の起点でもある 中)「いづみ町商店街」内にある、鯖街道資料館には、当時の物流の歴史が記されている 右)店の前でもうもうと煙を上げ、浜焼き鯖が焼かれている風景に出会える

空前の「空弁ブーム」の火付け役となった「焼き鯖寿司」。焼き鯖を押し寿司にした画期的なアイデアの発祥は福井にありました。

福井は越前がにやおろしそば、ソースかつ丼で有名ですが、非常に高度な鯖文化も息づいている町なのです。小浜市は鯖が豊富に上がり、鯖専用漁船まで存在していました。さらに小浜市から京都へ続く物流の道を、多くの鯖が運ばれたことから「鯖街道」と呼び、丸ごと一匹を串に刺し、炭火で焼き上げる豪快な料理「浜焼き鯖」も有名です。小浜ではめでたい時は赤飯と焼き鯖が食卓に並ぶ習慣も続いています。

また小浜だけでなく、大野市も丸ごとの焼き鯖を食べる習慣があります。江戸時代、山の中の大野藩藩主が、夏バテ防止にと城下の民に焼き鯖を振舞ったことから、今でも半夏生の日には「半夏生(はげっしょ)鯖」と呼んで好んで焼き鯖を食べます。

また、大量に取れた鯖を保存するため、丸ごと一匹をぬか漬けにした「へしこ」も、福井の海岸線全域で作られる伝統料理の一つです。さらに京都へ運ぶために酢で〆た〆鯖は、「鯖街道」の沿道で〆鯖寿司となって販売されているほか、時代が下って現代では「鯖缶」も県内で種類が数多く揃うほど。

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鯖の糠漬け「へしこ」は焼いて食べるほか、薄くスライスしてそのまま食べることもできる

「街の名物を、と熟考の末に」

まさに「鯖5段活用」ともいうべき鯖料理の、最後を締めくくるのが焼き鯖寿司です。元々、焼き鯖をほぐしてちらし寿司にする習慣は小浜市の西・高浜町でも見られましたが、押し寿司の形にしたのはここ数年の間の出来事。新・伝統料理ともいえる焼き鯖寿司を開発したのは、小浜市に拠点のある『若廣』の山之内康雄社長です。山之内社長は福井県外の出身。開発当時は三国に住んでいて、地元の祭りで「何か目玉になるものを」と考え出したのが焼き鯖寿司だったのです。「三国を歩いていると、店の前で鯖を焼いている風景によく出くわしたんです。それだけ鯖に親しみがあるならば、焼き鯖を寿司にしたらどうか、とふと思いついたのがきっかけでした」。

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こちらの焼き鯖寿司は一つひとつ手作り。〆鯖を使った鯖寿司も密かな人気

初めて見る食べ物にいち早く飛びついたのは地元の人たちでした。テスト販売のつもりがあっという間に完売。かくして商品化に乗り出したのです。その後、鯖文化の中心にあるのは小浜であることから、小浜に拠点を作り、この町から全国へと焼き鯖寿司を発信しはじめました。空弁ブームが訪れる以前から空港売店で販売しており、ブームと同時に爆発的な売れ行きとなりました。

新しいけど懐かしい味。焼き鯖寿司が福井の人に愛されているのは、鯖と共に暮らしてきた福井の文化が今も息づいているからなのでしょう。

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山之内社長は「小浜のある若狭地方を世界に広めたい」という思いから『若廣』と社名を付けた
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