郷土料理ものがたり紀行 宮崎編
九州の東側、太平洋に面した南北に長い海岸線を持ち、南国特有の穏やかな気候に恵まれた宮崎県。その昔、日向(ひむか)とも呼ばれ、日本神話にみられる天孫降臨の地として伝承地も数多く残されている宮崎では、年末から年始にかけて県内各地域で収穫の喜びと感謝を神に捧げる神楽が奉納されます。神楽で祭壇に奉納される品々は、その土地でとれた農産物や海産物といった食物から、御神格とされるイノシシの頭など、地域ごとにさまざま。九州山地の豊富な森林が育む山の幸、南方から上る黒潮が運ぶ海の幸。まさに太陽と自然の恩恵を神に感謝しつつ生まれた日出る土地の郷土料理には、どのような特徴が見られるのでしょうか。
大通りの真ん中にワシントニアパームの木が立ち並ぶ宮崎市の中心市街地。季節を問わずまるで南国のような風情を醸し出すこの街の一角にあるのが店主・森松平(しょうへい)さんの営む郷土料理店「ふるさと料理 杉の子」です。森さんは宮崎の郷土料理の歴史や調理法について著書も出されている宮崎郷土料理の第一人者。今回は森さんの娘さんである若女将・前田省子さんに、宮崎の郷土料理の特徴についてお話をおうかがいしました。
「杉の子」では、四季折々の食材によって年に数回10品以上もあるコース内容を変えているそうですが、その料理の数々はどれも地どれの食材そのものを活かした素朴な味わい。しかし前田さんは宮崎の郷土料理の特徴として「食材が豊富すぎて、だからこそコレという決定的なものが存在しない」と言います。もちろん近年は冷や汁や地鶏の炭火焼などが宮崎料理として認識されてきてはいますが、南北に長い山間部と海岸線を擁するからこそ、料理ひとつとっても「大きく分けて5つの地域で出汁のとり方や具材まで異なります」と、地域全体を象徴する一品が生まれにくい背景を教えてくださいました。
ただ、その多種多彩な料理の中で「その土地で生まれ、支持され続けてきたものが郷土料理として残っている」という認識では、宮崎県央部の冷や汁、県北山間部のわくどう汁、県南海岸部の魚うどんやツワブキの煮しめなど、どれもが地元の食材を使った昔ながらの料理。特定のエリアでしか受け継がれていないため、確かに“宮崎の”という意味で広く認知されているわけではないものの、それほど素材ごとに個性あふれる味わいが残されているようです。それでは、県の北部にあたる地域ではどのようなものが郷土の味として引き継がれているのでしょうか。延岡市にて古くは平安時代より続くと伝えられている「鮎やな場」を訪ねてみました。
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