郷土料理ものがたり紀行    三重編

豊かな海の恩恵を受けて生まれた漁村独自の食文化

  • text : T-ONE 井坂信子
  • photo : T-ONE 井坂哲也
  • edit : nano.associates 竹内せいじ

chapter 4「漁師飯が地域を代表する郷土料理として定着」

魚を使った寿司は人が集まる時に振る舞われており、志摩地方では「てこね寿司」がよく作られてきました。カツオ漁に出た漁師が船上で食べていた料理で、釣ったカツオをぶつ切りにしてから醤油漬けにして、持参した酢飯と手で豪快に混ぜて食べたことからこの名がついたと言われています。また、女性も海女として働くことが多く、準備に時間のかからないこの料理が定番料理として定着したようです。伊勢神宮内宮前の「おかげ横丁」内にあり、伊勢路の田舎料理が味わえるお店「すし久」さんに、お話を聞いてみました。

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カツオ漁に出た漁師が船上で食べていたと言われる「てこね寿司」

「すし久」さんでは、秘伝の醤油ダレに漬けた肉厚のカツオの切り身を、刻んだショウガと大葉を混ぜた酢飯の上に乗せた「てこね寿し」がいただけます。カツオは本来独特の臭みがありますが、漬けダレにつけることで身が締まり、臭みをほとんど感じなくなります。米はもちもちとした食感が酢飯によく合う三重県産のブランド米「御絲産コシヒカリ」にこだわっているそうです。こちらの建物は明治2年の伊勢神宮遷宮時に出た宇治橋の古材が一部使われており、伊勢の貴重な文化資産でもあります。由緒ある建物でいただく郷土寿司は風情があってまた格別な味わいが楽しめます。

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