郷土料理ものがたり紀行 三重編
答志島は、鳥羽港の北東に位置する鳥羽市最大の島です。漁場に恵まれ、様々な魚介類が水揚げされています。春から夏にかけては海女漁も盛んで、アワビ、サザエ、タコなどの魚介類、さらに、ワカメやアラメなどの海藻を収穫しています。江戸中期宝暦10年創業、答志島を本拠地として「黒ちりめん」や「かき佃煮」などの水産加工販売業を営む「浜与本店」の本社をお借りして、答志島に伝わる郷土料理を作っていただきました。料理をしてくれたのは、「島の旅社」のスタッフ、浜口幸子さんと浜口ちづるさん。「島の旅社」とは、島の海女さんや漁師の奥さんが集まり、離島の魅力を体感してもらいたいと知恵を出しあって「島の旅をプロデュースする島の母ちゃんたちの取り組み」だそうで、リクエストがあれば「海女小屋体験ツアー」の中で答志島に伝わる郷土料理をふるまっているそうです。
「女料理」の代表的なものと言えば炊き込みご飯です。中でも魚介を使ったものは「タコ飯」「牡蠣飯」など魚介類の名前がそのまま料理名になっており、「イノケ飯」はイノカイという貝を使ったイノカイ飯のこと。訛ってイノケ飯と呼ばれています。イノカイは、海の深いところの岩場に生息しているため海女にしかとれない貝で、火を通しても身が固くならないので、子どもやお年寄りにも好まれてきました。むき身を小さく切って季節の野菜と一緒に醤油や酒などを入れて炊き込み、ご飯が炊きあがったら刻みネギをたっぷり入れてかき混ぜたらできあがりです。「最近ではあまり捕れなくなったため貴重ですが、以前は両手で抱えきれないほど大量に捕れていたため、炊き込みご飯はもちろん、焼いたり、カレーに入れたりと様々な調理法で食べられてきました。蒸したものは子どもがおやつ代わりに食べていたんですよ」と浜口さん。
答志島などの離島には、それぞれの漁場で捕れた魚を使った「珍味」と呼ばれる独自の料理が伝承されています。「イワシのアラメ巻き」は地元で捕れるイワシと海女が採る海藻(アラメ)を見事に取り合わせた代表的な「珍味」と言えます。頭と内臓をとったイワシを、水で戻したアラメで三重ほど巻き、醤油とみりん、砂糖を入れて煮立てます。獲れたてのイワシを使うので臭みは全くありません。アラメはアワビのエサになる海藻で、答志島で昔からたくさん収穫されています。一度天日で干したものを大きな釜でやわらなくなるまで何時間もかけてゆがき、それをまた干して保存しています。何度も天日で干すことでミネラルなどが豊富になり、栄養価も高いため「アラメなどの海藻をたくさん食べているから島には長寿の人が多い」とも言われているそうです。
海女漁が盛んな答志島では、海女料理の中から伝統料理が生まれています。「煮みそ」はその代表料理のひとつ。海女小屋は、海女さんが漁で疲れた体を休めたり、火を焚いて体を温めたりする場所。囲炉裏を囲みながらよく食べられているのがこの「煮みそ」です。キズ物になった貝や魚と、自宅から持ってきた野菜を大きな鍋に入れて煮立て、味噌と砂糖でしっかりと味付けするだけのシンプルな料理です。浜口さん曰く「魚介類がどっさり入った海鮮味噌汁のようなもの」で、「他県の人に振る舞うと、この美味しい味噌はどこで売っているのですか?とよく聞かれますが、味噌は何でもいいんです。新鮮な魚介から出るだしがすごいので、普通の味噌でも絶品の味に仕上がるんですよ」とのこと。鮮度が高いことが最高の味付けになっているようです。また、味噌は魚特有のくさみを消してくれる作用があり、どの魚にも合うので味噌を使った料理が多いのも特徴です。
さらに「春と秋には島中の食卓に並ぶ」と言われるほど、収穫時にはどの家庭でも食べられている「生しらす」は、揚がったその日しか食べられない島の名物。酢味噌で食べるのが答志島の食べ方だそうです。また、酢でしめたイワシをほっかぶりのように酢飯にかぶせた「ほっかぶり寿司」など、正月や祝い事の際に必ず寿司が作られきました。そこで、農林水産省選定「農山漁村の郷土料理百選」にも選ばれた伊勢志摩の代表的な郷土寿司「てこね寿司」を目指して伊勢地区へ向かいました。