郷土料理ものがたり紀行    三重編

豊かな海の恩恵を受けて生まれた漁村独自の食文化

  • text : T-ONE 井坂信子
  • photo : T-ONE 井坂哲也
  • edit : nano.associates 竹内せいじ

chapter 2「船上で生み出された漁師たちによる豪快な男料理」

志摩地方で出会った「男料理」は「せこぎり」。「せこぎり」とは、魚の頭とヒレ、内臓を除いて、背から中骨まで魚を輪切りにしたもの。魚の種類によっては表面に塩をうち、数時間寝かせてからポン酢や酢味噌、生姜醤油で食べられています。志摩町の和具漁港で水揚げされた新鮮な魚介類を活き造りなどで楽しませてくれる、民宿「和具浦荘」の店主・山本清光さんに鮮魚を使った「せこぎり」を作っていただきました。

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豪快に、そして素早く魚をさばいていく店主の山本さん

通常は、ヨコワやイサギなどの小さめの魚を使用することが多いそうですが、この日はソマカツオを使用。頭と内臓を取り、骨がついたまま塩をします。塩をすることで身がしまり匂いが下に落ちるので生臭さがとれるそうです。2~3時間寝かせたら水で軽く洗って5㎜くらいの厚さにスライス。その際大きな骨は取り除きますが、小骨は気にせず切っていきます。山本さんが「骨の周りの身が一番美味しいので骨が多少残っていても気にしません。この辺りでは小さな子どもでも上手に骨だけ出しますよ」と教えてくれました。
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しっかりとした歯ごたえと、魚の旨味を感じられる「せこぎり」

ソマカツオはさっぱりとした大根おろしとポン酢が合いますが、イサギなどは酢味噌で食べることが多く、各家庭によってポン酢や酢味噌の味は様々。魚特有の臭みが気になる時は、塩をした身をさらに生酢につけてから食べたり、酢味噌に生姜を入れたりするそうです。山本さん曰く「沖でせこぎりしたものは、真水ではなく海水で魚を洗うのでさらに旨みが増すんです」とのこと。「船上で作ったせこぎりは帰港時には程よい塩加減になっているので、漁師から分けてもらうのを楽しみにしていることも多い」そうです。
生魚を使ったものが「男料理」に対して、炊き込みご飯や煮ものなど主婦が家庭で作る料理は「女料理」であると言えます。漁村に伝わる「女料理」を作ってもらうため、数多くの郷土料理が残る鳥羽の離島・答志島へ向かいました。
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