郷土料理ものがたり紀行 福井編
福井県の伝統料理は仏教文化の影響なくして存在しないほど、精進料理と密接な関係にあります。例えば油揚げもその一つです。油揚げは豆腐を揚げたものですが、この豆腐を作るのはかなりの手間ひまがかかります。大豆をつぶして絞ってにがりを加えてと、本来ならば考えもつかないような工程を経て作られています。それほどまでに豆腐をはじめ、料理をすることが修行の一つであったのです。
さて福井において今、一番有名な油揚げといえば、通称“竹田のあげ”です。坂井市東部、山に囲まれた竹田地区の、『谷口屋』が作る油揚げは、福井県内はおろか、県外からもひっきりなしに買いに訪れるほどの人気を誇っています。大きく分厚い油揚げが特徴ですが、この大きさと厚さは現代に合わせたのではなく、創業以来変わらないとのこと。
『谷口屋』は創業が大正14年。夫婦で豆腐屋を始めようと永平寺門前の店に住み込みながら技を修得したそうです。当時はいつでも食べられるものではなく、冠婚葬祭時にのみ提供される貴重な食材でした。2代目が継いだ頃には一般的になり、伝統料理も作られるようになりました。「大根の煮しめ」と呼ばれる野菜の煮物は、油揚げの大きさで「大煮しめ」、「小煮しめ」と区別するほど、煮物の中でも油揚げの存在感は非常に高い位置を占めています。また、野菜と油揚げを出汁で煮込み、片栗粉でとろみをつける「くずまわし」と呼ばれる料理も残っています。
3代目の谷口誠さんは「油揚げも進化するんです」と、これまでの豆腐屋のイメージを払しょくし、先代、先々代から人気の油揚げを、姿かたちは受け継ぎながら、揚げ方から油までこだわり抜き、より高級食材へと昇華させています。
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