郷土料理ものがたり紀行    北海道編

すべての食はカムイの贈りもの

  • text : カルチャーランド 藤田貢也
  • photo : 佐藤アキラ
  • edit : nano.associates 竹内省二

日本の国土の約4分の1(22.9%)を占める北海道。日本の台所と呼ばれるほどの食の宝庫であり、“北海道物産展”などは全国各地で人気を呼んでいます。その北海道の歴史は浅く1869(明治2)年の開拓使設置から数えても150年足らずです。それまでは蝦夷地と呼ばれていた未開拓の大地、ここには先住民族のアイヌが多くいました。現在も、長い歴史を持つアイヌ民族(2013年の「北海道アイヌ生活実態調査」で把握できた対象人数16,786人)が住んでいます。アイヌ民族にとって郷土料理とは何であったのでしょうか、どんな料理があるのかも興味津津です。

chapter 1
自然を大事にする民族料理がアイヌ料理

ナナカマドの赤い実の向こうにひんやりとした青空が広がる、晩秋と初冬が入り混ざった札幌。その中心部に位置する道庁のすぐそばに、かでる2・7ビル(北海道立道民活動センター)があります。まず、このビルの7階にある「公益社団法人北海道アイヌ協会」の竹内渉(わたる)さんと津田命子(のぶこ)さんを訪ね、アイヌの歴史や食文化、郷土料理について聞いてみることにしました。

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アイヌの誇りや自然とともに生きた食生活を語る、竹内渉さん(左)と津田命子さん(右)

開口一番、竹内さんは「歴史的にもアイヌの郷土料理という言葉はないに等しいです。アイヌの土着性や地域性がある料理ということでは“民族料理”という言葉の方が適切でしょう」と教えてくれました。さらにアイヌの歴史について話していただくと「伝統的なアイヌ文化と見なすことができる生活様式が成立していくのは、約13〜14世紀頃だと考えられています」。今から約700〜800年前のアイヌは、どんな食生活をしていたのかと想いを馳せていると、津田さんは「アイヌの人たちは、自然の恵みに感謝しながら、野山の動物や植物を食料としていました。山菜採りをはじめ鹿、ヒグマ、ウサギ、鮭や鱒などの魚や貝をとっていました」。さらに「山菜でも根っこを残すことはもちろん、必要な量しか採りません。なぜなら動物たちもその植物や果実を食べて生きているからです」と続けてくれました。

アイヌとは、アイヌ語で「人間」という意味であるそうです。それはカムイ(神)に対する概念としての「人間」という意味であるとされています。カムイは、自然界のすべてのものに心があるという精神に基づいた「自然」を指す呼び名です。アイヌは人間の生活に必要なもの、人間の力の及ばない事象(天災や病気など)を「カムイ」として敬ったそうです。現代人がつい忘れがちな自然の恵みのありがたさ、そのありがたさを継承するアイヌ料理の具体的な形や味を求めて、白老町にある「アイヌ民族博物館」に向かいました。

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