郷土料理ものがたり紀行 奈良編
朝胤師のお話に引き込まれ、茶がゆのことを更に知りたくて向かった先は、薬師寺からほど近い食事処。創業150年の老舗・総本家平宗の十代目を担う平井宗助社長に、奈良の郷土料理について教えていただきました。
江戸時代末期に吉野の地で創業し、今や柿の葉寿司の総本家として名を馳せる平宗。県内6ヶ所にある直営店の中でも、ここ「倭膳たまゆら」は伝統と時代が調和した郷土料理で話題を呼んでいます。お店で迎えてくれたのは、150年続く老舗の看板を背負う十代目の平井宗助社長。自慢の柿の葉寿司をはじめ奈良の郷土料理について、その魅力を語っていただきました。
「奈良の郷土料理は、他所に比べるとかなり身近な存在だと思います。茶がゆも柿の葉寿司も、子供の頃から慣れ親しんできました。特に茶がゆは、寒い冬には熱々で、暑い夏には冷たく冷やして一年中食べてきましたね(笑)。今もなお、茶がゆを『おかいさん』と呼んで親しんでいる人や、おばあちゃんが作った柿の葉寿司が一番だという人が多いです。奈良の郷土料理って、そういうものなんだと思います」
「『奈良に旨いものなし』という言葉がありますが、元々は控えめで謙虚な奈良の人たちが言い始めたようです。海がない土地特有のいわゆる田舎料理を、半ば自虐的に表現していたのでしょう。でも、実際は旨いものが沢山あるんですよね。茶がゆも柿の葉寿司も見た目は地味で華やかさに欠けますが、素朴で優しい味わいはTHE郷土料理だと思います。そして、見た目や味だけではない奥ゆかしさを秘めているのも奈良の郷土料理の魅力です。茶がゆなら貴重なお米を増やすための知恵だったり、柿の葉寿司なら握る・包むという優しさだったり」
柔らかな表情でそう話す平井社長を見ていると、商売っ気抜きで郷土料理を愛していることが伝わってきます。古いものへのリスペクトを忘れず、その地ならではの味を次代に繋ぐ思いがある限り、「奈良に旨いものなし」はいつしか忘れられることでしょう。
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