郷土料理ものがたり紀行 奈良編
「国のまほろば」と謳われ、わが国で最も早く都の形式を整備して栄えた大和の国では、古くから優れた文化が醸成されてきました。食文化もその一つで、「茶がゆ」や「柿の葉寿司」に代表される郷土料理は、今なお人々の暮らしに深く根差しています。そんな大和の食を探る旅。まずは、日本最古の宗派である法相宗の大本山として1300年の歴史を誇る世界遺産・薬師寺を訪ね、執事長を務める加藤朝胤師に「茶がゆ」についてお話を伺いました。
「大和の朝は茶がゆで明ける」といわれるほど、日常の朝食として庶民の間で親しまれている茶がゆ。創建から1300年の名刹においても、変わることなく伝統の食文化が受け継がれています。
「古くから、お茶には薬効があることが知られてきました。そんなお茶で炊いたおかゆは、心身ともに清らかになる食べ物として朝食で供されてきた奈良の伝統食です。私達も、毎朝5時から全僧侶で読経をあげた後、全員が揃って茶がゆをいただきます。食前のことばを唱えるほかに形式的な作法は特にありませんが、食物を敬い心穏やかにいただくことで新たな一日に感謝するのです」
薬師寺では、現世を幸せに生きるための法を説いたお釈迦様の教えが重んじられています。その教えを説く僧侶たちにとって、茶がゆは健やかな一日を過ごすために食す薬のような存在なのかもしれません。
茶がゆをいただく前に唱える「食前のことば」について、朝胤師は「薬師寺勤行集」という経典を開きその教えを説いて下さいました。
「この中にある『粥偈』とは、食物に関する仏の教えを記したものです。粥には、心身の充実、長寿の全う、飢えや渇きの癒し、病の予防など十の利があり、これを施すことは即ち薬であると説いています。続く『対食五観』は、『一:食事を前にして感謝する、二:食事を摂るに相応しい徳行をしたか自身に問う、三:心を正しく保ち邪念を払うためにいただく、四:心身を養うための薬としていただく、五:仏の道を全うするためにいただく』という五つの偈です。これらの根底には、茶がゆをはじめ食事に対する感謝の心が流れているのです」
朝胤師のお話に垣間見えた、お寺と茶がゆの切っても切れない良い関係。そこに宿る教えを噛み締めながら、じっくり味わいたいものです。
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