郷土料理ものがたり紀行    秋田編

長く厳しい冬から生まれた、雪国ならではの保存食文化

  • text : 児玉菜穂子
  • photo : 伊藤靖史
  • edit : nano.associates 竹内せいじ

chapter 2「燻した大根が独特の風味を醸し出す漬け物、いぶりがっこ」

道路の両脇に続く雪の壁が積雪量の多さを物語る横手市山内。ここで農業を営む高橋一郎さんは、山内いぶりがっこ生産者の会で代表を務めています。山内地区は「いぶりがっこ」の産地で知られ、それぞれの生産者が原料となる大根の栽培からいぶりがっこ作りまでを手がけます。

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山内いぶりがっこ生産者の会代表の高橋一郎さん。無添加にこだわったいぶりがっこを製造、販売しています

秋田県で昔からごはんのお供やお茶請けとして親しまれている「いぶりがっこ」。一体どんなものなのか、高橋さんにお聞きしました。「いぶりがっことは、大根を燻してから漬け込んだ漬物のことです」。そう言って出された「いぶりがっこ」は表面が茶色くシワシワ。それでいて食べるとパリパリとした歯応えで、燻製特有の香ばしさが口の中に広がります。豪雪地帯の山内地区は、昔は冬になると雪で道路がふさがり、買い物に行くこともできなかったとか。その間の野菜の補給として、野菜を漬け込んで保存食にしたのが「いぶりがっこ」の始まりです。
その作り方は独特です。まずは洗った大根を縄で結び、燻し小屋に吊して下からあぶります。あぶるのに使う木の種類によっても仕上がり具合が変わり、落葉樹のナラや栗の木が最適とか。最近では廃業したりんご農家からりんごの木の利用を頼まれることもあるそうです。こうして4~5日かけて大根を燻製にしたら縄を外し、もう一度ゴミなどを洗い流してからやっと漬け込み作業に入ります。

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「いぶりがっこ」に使用する野菜は大根が主流。各家庭ではかぶや柿を使ったり、さまざまな野菜で楽しみながら作ります

漬け込みに使うのは、塩、米ぬか、米麹、くず米、若干の砂糖と着色用の紅花。ほかに化学調味料などの食品添加物を入れる場合もありますが、味にはそれぞれ違いがあります。添加物の入ったものは口に入れた瞬間においしさを感じますが、無添加のものは後から感じる抜群の旨みが特徴です。秋田県総合食品研究センターで「いぶりがっこ」の成分を分析したところ、天然アミノ酸GABA(ギャバ)の数値が発芽玄米の約3~8倍もあったというから驚きです。
そもそも漬物にする野菜をなぜ「燻す」ことになったのでしょうか。「この辺りでは大根はじゃがいもの後作なのです。収穫するのは10月下旬、11月には雪が降るので屋外に干しても乾燥しないんですね。そこで昔、誰かがいろりの上に下げてみたら乾いた、というのが始まりのようです」。野菜を燻すというのは世界でも大変珍しいと言います。最近は他県が真似た商品を作るようになってきていますが、「私たちは自分たちで食べるのが目的で作り始めたものが、たまたま直売所などで売れるようになっただけ。売るのが目的ではないから作り方も全然違う」と高橋さんは笑って言います。「おいしい、いぶりがっこを作るには、まず素材の大根が良くないとダメ。目まぐるしい気温の変化に合わせて、その時々で漬け方も変えなければいけません」とのこと。「いぶりがっこ」作りには細かい気配りが必要で、手間がかかるものなのです。

いぶりがっこ生産者の会

山内地区でいぶりがっこを製造、販売する農家で構成されたグループ。会員数は2016年3月現在で17人。いぶりがっこの質の向上と市場への普及、技術継承のため積極的に活動中。横手市地域課と合同で開催するいぶりがっこの品評会「いぶりんピック」は、毎年の恒例行事となっています。

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