郷土料理ものがたり紀行    北海道編

すべての食はカムイの贈りもの

  • text : カルチャーランド 藤田貢也
  • photo : 佐藤アキラ
  • edit : nano.associates 竹内省二

chapter 3
手間ひまのかかる素朴な味、シト

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オオウバユリの澱粉をこねる、笑顔の貝澤雪子さん。奥にいる方が関根真紀さん

平取町にシト(団子)やシカ汁などのアイヌ料理を提供してくれる「ランチハウスBEE」という店があると聞き、白老から道央道で苫小牧東ICに出て、日高自動車道で平取町に向かいました。「ランチハウスBEE」は平取町の中心部を抜けた国道237号線沿いの店。そこでアイヌ料理を今に伝えてくれる貝澤雪子さんは73歳とは思えない元気なおばあちゃん、娘さんの関根真紀さんもお手伝いをしてくれました。

貝澤さんは「私の本業はアイヌの伝統織物、アットゥシ織りです。アイヌ料理は希望するお客さまがまとまって来られる時にだけ作っています。アイヌ料理の材料はすぐ手に入るわけではありません。今日作るシトの材料、オオウバユリは近くの山で5月に球根を掘り出し、水に漬けてから臼で挽くなどの工程を経て、乾燥した澱粉にしています。その澱粉も一番粉は薬用や贈答用、二番粉がシトになります」と山の恵みに出会える時期に合わせて採取する暮らしの一端を話してくれました。オオウバユリのシトは、澱粉を水でこねて団子の大きさにしたらフライパンで焼くだけ。お餅のようなボリュームのある食感ですが、現代用に作った甘辛いタレがなければ、澱粉を練り上げた素朴な味が口に広がるだけです。

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オオウバユリのシト。シトは日常の食べ物というより、イオマンテ(熊送り)などハレの日の添物やご馳走として作られることが多かったそうです

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さっぱりとした味のシカ肉と野菜類を組み合わせたシカ汁は、アイヌ料理らしいおいしさにあふれています

「動物の肉のありがたさが沁みる、シカ汁」

往時、アイヌの人たちにとって数多く生息したシカは簡単に狩猟できる主要な獲物だったそうです。シカは明治時代、保護のために北海道全域で禁猟となりましたが、最近は増加による被害が出ているために狩猟されています。そのシカを使った「シカ汁」を娘さんの関根真紀さんが作ってくれました。作り方は冷凍保存したシカ肉を茹でて水洗いし、まず肉のアクを取ります。そのシカ肉を水の入った鍋に入れ、柔らかくなるまで2〜3時間煮込みます。そこにキノコ、ゴボウ、フキ、山菜など、その時にある野菜を入れ、それらが柔らかくなれば出来上がりです。

「アイヌの人たちは油や塩だけで味を出していましたが、現在は、味噌仕立てにして食べやすくし、ジャガイモを入れるなど現代風にしています。私たち家族もシカ汁は大好物です。アイヌでは草全般をキナと言います。食べる寸前に干したキナを入れるのは昔も今も同じです」と関根真紀さん。シカ汁のシカ肉は肉自体にうまみがあるというより、肉を食べているという醍醐味と歯ごたえがあります。汁は、自然な味でありながら不思議なコクがあり、何杯でも食べたくなります。

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 アイヌの伝統織物、アットゥシ織りは、オヒョウやハルニレなどの木々の表皮の一枚内側をはぎとり、柔らかくした皮から繊維を取り出し、より合わせて糸をつくります。その糸を使って織り機で織って布にします。二人(貝澤雪子さんと関根真紀さん母娘)は染めた糸を巻いているところです

「せっかく人間に生まれたのだから頑張らないと・・・」

この言葉は、貝澤雪子さんが話の中でふと漏らしたものです。自分を戒めるように人に聞かせるように・・・。アイヌの人たちにとって、シカ、ヒグマ、ウサギなどの動物も、オオウバユリ、イナキビ、ワラビやフキなどの植物も、人間と同じであり、カムイのもとでは平等なのです。たまたま人間に生まれたのだから人として頑張らないといけないのは、当然のことであるという意味が込められているような気がします。さらに突き詰めるならば、動物や植物の命を奪い、食して生きているのが人間です。

アイヌ民族料理はすべての食がカムイの贈りものであるという、自然への畏敬の念と人間であることの謙虚さを常に忘れてはいけないと、現代の私たちに教えてくれているのでしょう。

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