郷土料理ものがたり紀行 北海道編
札幌から道央道(高速道路)に乗り、白老ICで降りて5分程で「アイヌ民族博物館」。入口の看板は「しらおいポロトコタン アイヌ民族博物館」になっています。ポロトコタンはアイヌ語で“大きな湖の集落”という意味だそうで、園内の広さが20,265㎡と聞いて、さらに驚かされます。アイヌ料理が食べさせてもらえる店は、軽食という意味の「カフェリムセ」というところで、目の前にポロト湖が見える大型のビニールハウス。ここでアイヌであることに誇りを持つ村木美幸さんにアイヌ料理について説明してもらいました。
「ここで出している『オハウ』・煮込み汁は、一般的なアイヌの伝統料理です。野菜や魚などを煮込んだ塩味のスープです。主食というものがないアイヌの食生活の中心にあったものです」。オハウの中には、ジャガイモ、ニンジン、大根・・、白老で取れる鮭などが大振りに切ったまま入っています。それぞれの具からしみ出た味がハーモニーを作りだし、塩味でオブラートされたスープの味は、自然そのもの。何の抵抗もなく口の中で広がるおいしさは、とかく濃い味に慣らされた現代人にとって新鮮な出会いです。
「アイヌの食文化は自然のものをそのまま味わうことにありますが、その中で貴重であったのが“油”です。油は、クマなどの動物や魚から取ります。現在のように炒めることにも使いますが、汁を作るときに『コク』を出すためにも使います。魚の油では肝油を作り、冬のビタミン補給に使っていました」(村木美幸さん)
「回帰して遡上した鮭が自然の中で風味を増す」
アイヌの食生活で大きな疑問として浮かぶことは、冬場の食べもの。野山の動植物が食料にできない期間は約半年間、そこにはさまざまな工夫があったようです。「山菜類は、冬のために乾燥して保存します。乾燥させたものを汁などに入れて戻して食べます。塩が手に入るようになってから塩漬け保存もしています。肉類はサッカム(干し肉)やサッチェプ(干し魚)にすることで、貴重なタンパク源になりました。」(村木美幸さん)
干し鮭は、内臓を取り除き戸外で寒干しにしたあと屋内に取り込み、囲炉裏の煙をあて燻製にします。アイヌ住居・チセ(家)では1年中、囲炉裏を使っているためチセの上の方に鮭を置くだけで、自然に燻製にできる仕組みになっているそうです。川で生まれた鮭の稚魚は海に出て、約4年後には生まれた川に戻ってきます。冬になる前、秋に遡上する鮭の不思議な回帰もカムイのお蔭なのかもしれません。
「ここのコタン(アイヌの人たちが住んでいたところという意味)は海の河口に近いコタンですが、平取町にあるコタンは山が近かったこともあり、シトという団子をよく作っていて、今でも食べることができる店がありますよ」と最後に村木美幸さんが教えてくれました。
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