郷土料理ものがたり紀行 奈良編
茶がゆや柿の葉寿司などの郷土料理を通じて、奈良の食文化に少なからず触れられた気がします。そんな中、郷土の作物についても知りたいと思い、奈良市郊外の山里にある大和伝統野菜のレストランを訪ねました。
奈良市内から車を走らせること小一時間。郊外の中山間地に広がる清澄の里に、大和伝統野菜が主役の農家レストランがあります。ヤギの親子と一緒に笑顔で出迎えてくれたのは、三浦雅之さんと奥様の陽子さん。農業を通じた新たなコミュニティづくりを目指す野菜のエキスパートに、伝統野菜とともに育まれた奈良の食文化についてお話を伺うことができました。
「大和伝統野菜とは、県が認定する大和野菜約40種の中でも特に歴史が深いもので、現在19品種が認定されています。ブランド野菜として有名な京野菜に比べると知名度は低いですが、深く濃い味と香りや独特の姿形が特徴です。個性が強くてトンガッたヤツが多いですね(笑)」
1200坪もの広大な敷地で様々な野菜と日々向き合っている三浦さんにとって、個性派揃いの伝統野菜には愛情もひとしおといった様子です。
「伝統野菜が私達にもたらしてくれるものを、私は『7つの風』と呼んでいます。風土、風味、風景、風習、風物、風俗、風情。栄養価や成分など科学的な研究は進んでいますが、この『風』に関する伝承は遅れをとっている状態です。農家の高齢化が進み『語り部』が減少する中で、私達が『語り継ぎ部』となって次代へ引き継がなければ…。こんなに生き生きした野菜、スーパーでは見かけないでしょう(笑)」
店内の至る所に無造作に並べられた伝統野菜を抱えながら、目を細める三浦さん。姿形が不揃いな個性派野菜たちからは、大地のエネルギーがビシビシと伝わってきます。「辛くないから」と差し出されたひもとうがらしを生でひと口かじってみると、爽やかな香りの後に濃い旨みが口いっぱいに広がりました。三浦さんが言う大和伝統野菜の「7つの風」。その意味が、五感を通じて少しわかったような気がします。
平城京に都が遷されるよりはるか昔から、脈々と受け継がれてきた食文化。時代とともに少しずつ変容を遂げながらも、豊かな大地の恵みに感謝して生かしきる人々の思いと知恵は変わることなく息づいています。素朴でありながら決して粗末ではない郷土料理と個性豊かな伝統野菜の数々は、かつて国のまほろばと称された地が生んだ偉大なご馳走だといえるでしょう。奥ゆかしき大和の食に、和食の原点を見た気がします。
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