郷土料理ものがたり紀行    沖縄編

「“くすいならちくみそーり”の心」

  • text : セソコマサユキ
  • photo : camenoko studio 大城亘
  • edit : nano.associates 竹内省二

 chapter 3 「長寿を生み出す“土産土法”の料理」

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赤田風で提供される全12品の宮廷料理。2時間から3時間かけて、ゆっくりといただく

最後にはやはり「沖縄宮廷料理」を頂かなわいわけにはいきません。向かったのは那覇市首里にある「赤田風」。住宅街の中にひっそりと佇み、完全予約制でじっくりと料理を味わうことができるお店です。店主の城間健さんは、名店「美栄」の厨房を18年間守ったのち独立した職人肌の料理人。「沖縄の料理のおいしさを伝えたい。お肉と鰹の出汁を使って、素材の良さが分かるやさしい味付けが琉球料理の特長です。手間ひまを惜しまないことが大切なんです」。こちらで頂けるのは宮廷料理のなかから、いまもその技が残り、城間さんが作り続ける品々。例えば12品のコースなら、「ポーポー」に始まり、「中身のお吸い物」、「芋くず(いむくじ)アンダギー」、「昆布(くーぶ)イリチー」、「ラフテー」に「ジューシー」など。写真左中央の黒いものは「ミヌダル」といって、豚肉の薄切りに黒ごまをすり潰してつけ、蒸したもの。写真手前中央は「ドゥルワカシー」で、出汁を入れて沸かし(ワカシー)、ドロドロになるまでこね(ドゥル)て作るもの。沖縄では縁起物とされている田芋を使います。
琉球王朝時代、中国からの冊封使とともにやってきた「包丁人(ほーちゅー。料理人のこと)」や、薩摩から技術を学び、もてなしの料理として発展した琉球宮廷料理。それは、どれも上品で、滋味深い味わいがしました。_ISL1024

沖縄の料理のベースとなる出汁は肉だしとかつおだしで、その両方を使う料理も多いそうです。そうすると「あじくーたー」な料理になります。出汁でしっかりと味がついているからこそ、塩分は少なくてすむというわけ。「たしやー」は、そうめんだけでなく、はんだまやうんちぇーばー(空芯菜)などひとつの野菜で作りますが、さっと仕上げるから野菜がおいしく、炒めるから生野菜よりも野菜の量が取れるのです。イリチーは昆布など乾燥させた食品などを、出汁を使ってゆっくりじっくり炒め煮する調理法のこと。“ゆっくりじっくり”がポイントで、その間にしっかりと旨味をとることができるのです。スヌイ(もずく)などの海藻も沖縄ではよく食べられますが、これらは水溶性の食物繊維。飲み込めば溶けてしまうほど消化がよいので子どもからお年寄りまで誰でも食べることができ、だからこそ豚肉をたくさん食べてもバランスが取れているのだそう。「沖縄には“土産土法”という言葉があります。その土地で取れたものを、その土地の方法で調理し、頂くこと。それが、その土地に暮らす人が健康であるために適した食べ方なんです。土産土法はとても大切なことだと思います」(松本先生)

沖縄の方言には、食前の挨拶である「いただきます」にそのまま代わるニュアンスの言葉がないそうです。そのかわり、年輩の方は「くすいならちくみそーり」と言います。それは医食同源の考えからきた「体にとって、お薬になりますように」というような祈り込めたニュアンスの言葉。実際に頂いた琉球料理はどれも滋味深く、やさしくて、それでいて出汁の効いたコクのあるしっかりとした味わいでした。少しずつ浸透し、ひとつひとつが体の糧になっていることを感じさせるよう。そして沖縄料理からは、様々な物を取りいれて、自分のエネルギーに代えようという力強さと、うちなんちゅの逞しさを感じました。沖縄が日本でも有数の長寿の地域として知られてきたことに、この食文化が大きな役割を果たしたことは想像に難くありません。ぜひ、みなさんも、沖縄の3つの料理を食べてみてくださいね。その味わいから、沖縄の食文化や歴史を感じることができるはずです。3つの郷土料理を食べ歩き、お腹も満たされて、ふぅとひといき。それではみなさん、「くすいないびたん」(ごちそうさまでした、の代わり。くすいならちくみそーりに対して食後に言う言葉)。

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