郷土料理ものがたり紀行 秋田編
秋田県南地域には、あらゆる具材を寒天で固める文化があります。「道の駅十文字」で寒天料理を販売しているさくらグループの佐藤哲子さんにとっては、子どもの頃におやつにも食べていたなじみ深いものだとか。秋田県で寒天の原料が採れるという背景があるわけではないのに、ここまで寒天文化が栄えたのはなぜでしょうか。佐藤さんに秋田県に伝わる寒天料理について教えていただきました。
一見するとおやつのような、はたまた一品料理のような「寒天」。一体どのようなときに食べるのでしょう。「主に冠婚葬祭の口取りに使われる料理です。日持ちするのでお祝いごとに使うことが多いですね。普段の生活でもほとんどの家庭で作って食べていますし、さまざまな行事には欠かせないものです」。中に入れる具材に決まりはありません。佐藤さんは、道の駅で販売している旬の果物や野菜を季節ごとに使用しているそうです。この日いただいたのは紅玉りんご、かぼちゃの一種コリンキー、抹茶と牛乳、しょうゆ味の野菜の五目寄せ、食パンのココア漬けの5品。紅玉りんごとコリンキーは、旬の時期にあらかじめペースト状にしたものを保存して使っています。「珍しい野菜や果物を見ると、まずはかためてみようと考えるんです」と佐藤さんは笑います。作り方も簡単。寒天を水で戻してとろみが付くまでかき混ぜて固さを調整、あとは砂糖、塩などの調味料と具材を入れるだけ。甘さは控えめで素材に合わせた味付けです。「寒天は素朴で健康にもいいですし、日持ちもします。固めるためにあらかじめペースト状にして保存しますが、これは冬に食材が不足することに対する工夫のひとつでもあります」。
一方、やや歯応えのある寒天に対して、こちらはふわふわ食感がおいしいお菓子。秋田県は「あきたこまち」に代表される米の産地。そのため、お菓子にも米を使ったものが多くあります。秋田では冬の屋外に干して外気で凍らせて作る「干し餅」が有名ですが、今回ご紹介するのは昔から北秋田市阿仁地区や前田地区で食べられていた「バター餅」。その「バター餅」を販売する北秋田市の「大太鼓の里 ぶっさん館」に向かい、日本バター餅協会会長の村井松悦さんと、生産者を代表して「大川米屋」の大川真理子さんのおふたりにお話を伺いました。
北秋田市阿仁地区では、昔からお茶請けとして親しまれていた「バター餅」。阿仁といえば冬山に入って熊を狩るマタギが有名ですが、このマタギとも深い関係があると言います。「マタギが山に入るときに持ち歩いたんです。おにぎりだと固くなってしまうけれど、バター餅はやわらかいままで食べられるから」と村井さん。「バター餅」とはその名のごとく、もち米とバターを合わせたお菓子。ふかしたもち米にバター、砂糖、卵黄、塩を入れてかき混ぜ、四角い型に入れて固めます。包丁で切れる固さになったら切り分け、片栗粉をまぶして完成。食べるとほんのり甘く、バターの香りが口の中に広がります。大川さんによると「作る人で材料の分量が違うので、それぞれ違う味になります」とのことですが、総じてやわらかくてよく伸びるのが特徴です。
テレビで紹介されたのをきっかけに全国的に知られるようになり、ほかの地域でも「バター餅」を販売する人たちが増えました。北秋田市内の製造業者たちは本場の「バター餅」を守ろうと日本バター餅協会を設立。「北あきたバター餅」として商標登録し、協会が認めるおすすめ商品には、「北あきたバター餅」の認定シールを貼って販売しています。
今回みなさんからお話を伺い、食文化というものはその土地の風土に合わせて形成されていくものだということが分かりました。「冬を越すための保存食」という位置付けは同じでも、沿岸部と山間部での食材の違いをはっきりと感じます。「目の前にあるもの」を使い考え出された伝統の郷土料理は、これからも後生に脈々と受け継がれて行くことでしょう。
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